一定の要件を満たせば分割型分割に該当へ
米国スピンオフ、法人税法上の“分割”に該当するケースとは?
日本の親法人が米国で事業を展開するにあたり、米国子法人の事業の一部を他の米国法人に移しその米国法人の株式を取得することにより子会社化するケースがある。いわゆるスピンオフだ。このスピンオフは、米国の法律を準拠法として行われるもの。また日本の会社法や法人税法は、スピンオフそれ自体を直接には規定していない。そのため、いわゆる米国スピンオフが日本の法人税法上の“分割”に該当しないのではないかと指摘する専門家の声もあったところであるが、本誌取材によると、一定のスピンオフであれば、日本の法人税法上、“分割型分割”として取り扱われる方向であることが判明している。今回のスコープでは、法人税法上、“分割型分割”として扱われるケースを紹介する。
分割法人の存続、分割承継法人株式の親会社への交付などが要件に
米国のスピンオフとは、法人がその事業の一部を切り離すことによって、その事業を他の法人に移すという分社化などをする際に用いられる組織再編の1つの方法のこと。近年米国において活発に利用されている制度だ。
具体的には、日本の親法人が支配する米国子法人を分割法人、他の米国法人を分割承継法人とする新設分割を行い、日本国内の親法人が米国子法人が取得した分割承継法人の株式の交付を受けることにより、日本の親法人が新たに分割承継法人を子法人とするケースなどに用いられている。
日本の会社分割とは異なる制度
このスピンオフは、米国の法律を準拠法として行われる組織再編の1つであり一見すると日本の会社分割と似ている部分があるものの、日本の会社分割とは異なる制度である。
たとえばスピンオフでは、分割法人が分割する事業を分割承継法人に移転する場合、資産と負債がそれぞれ別々に移転されることとなり、権利・義務の包括承継が行われないこととなる。
したがって、日本の親法人が支配する米国子法人が行うスピンオフが、日本の法人税法上、分割として取り扱われるどうか疑問が生じるところであるが、現在のところ、課税当局の公式な見解が示されていない。またこの問題について、裁判所の判断も示されていないのが現状である(コラム参照)。
当局、海外での組織再編の取扱いを公表へ
本誌455号6ページでお伝えしたように、課税当局内では現在、海外子会社の組織再編にともなう日本の法人税上の取扱いが検討されている。
この海外子会社の組織再編のうち、たとえばアメリカのように日本と同様な分割法制度をもたない国での分割については、@資産・負債を移転する会社の資産・負債の全部または一部が移転され、A資産・負債を移転する会社が移転後も消滅せず、B資産・負債を移転する会社が対価として分割承継法人の株式の交付を受け、その全てが直ちに資産・負債を移転する会社の親法人(株主)に交付されており、C前記@からBが当事者以外の機関による一定の法的手続き(たとえば裁判所の許可や株主総会の決議など)を経ていることを満たしていれば日本の法人税法上、分割型分割に該当するとの方向で検討を行っている。
米国のスピンオフは、一般的に前記@とAを満たしているため、前記BとCの条件を満たしているのであれば、そのスピンオフは日本の法人税法上の分割型分割として取扱われる方向だ。
具体的には、前記BとCの条件を満たしている図のようなスピンオフが日本の法人税法上の分割型分割として取り扱われる方向だ。
スプリットオフは分割型分割に該当せず
なお、一定のスピンオフが分割型分割に該当するとの取扱いがなされる一方、米国における会社分割の手法として用いられている「スプリットオフ」と「スプリットアップ」については、それぞれ日本の法人税法上の分割型分割に該当しないという方向で検討が行われている模様だ。
米国スピンオフ事件、日本の法人税法上の“分割”に該当するか否かの判断は示されず |
米国のスピンオフを巡る裁判例として、米国法人A社株式をもつ個人投資家が、A社がスピンオフの形式で分社化したB・C社株式を割り当てられたところ、これらの取得が配当所得等に該当するとして、源泉徴収義務がある証券会社が個人投資家に対して源泉所得税を請求していた事例がある。東京地裁の高橋裁判長は、スピンオフにより取得した株式は配当所得等に該当するとの判断を示し、この判断内容は控訴審および上告審においても支持されている(平成23年4月21日上告棄却・上告不受理決定、本誌413号9ページ参照)。この事案について、米国スピンオフが法人税法上の分割型分割に該当するのかどうかという論点が存在することを指摘する専門家の声もあったが、個人投資家によりその点の主張がなされず、裁判所の判断も示されなかった。
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T&Amaster
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キーワード 「分割型分割」⇒178件
(週刊「T&A master」456号(2012.6.25「SCOPE」より転載)
(分類:税務 2012.9.14 ビジネスメールUP!
1730号より
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