株主総会決議の取消しが可能か?
株主提案の一部を議題としない場合で東京地裁が注目判断
株主提案の一部を会社が招集通知に掲載しなかったことが株主総会決議の取消原因となるか否かが争われた事案で、東京地方裁判所で注目すべき判決(平成22年(ワ)第34202号)があった。東京地裁民事第8部(大門匡裁判長)は4月14日、原告である株主が提出した20個の議案のうち、5個の議案を会社側が招集通知に掲載しなかったことなどに関し、会社法305条1項などに違反するかどうかが争われた事案において、「別個の追加提案の拒否に当たるときは、他の決議の取消原因となることはない」とし、会社側の主張を認める判断を行った。株主総会で可決された各議決の取消しを求める部分を却下し、株主の請求をいずれも棄却している。
別個の追加提案拒否の場合は他の議決の取消原因に該当せず
議案の削除は会社法305条に違反するか
今回の事案は、東証1部上場のHOYAの株主である原告が、株主提案として会社に提出した20個の議案のうち5個について、会社が招集通知に記載しなかったため、本件株主総会の招集手続または決議方法が会社法305条1項に違反するなどとして争われたもの。
会社は株主との事前協議を踏まえ、株主総会に付議する意味がない議案であると判断したためであり、何ら瑕疵はなかったなどと主張。仮に瑕疵があったとしても、上程されなかった議案と各可決の対象議案には関連性はないとした。
株主の適法な提案を拒否した場合は可能
東京地裁では、「会社が株主の適法な提案を拒否した場合においては、それが議案の要領の通知等の請求の拒否(会社法305条参照)に当たるときは、招集手続及び決議方法の瑕疵として、当該請求に対応する株主総会決議(可決)の取消原因を構成する余地がある。」とした。
その一方、「一定の事項を株主総会の目的とすること自体を拒否したとき、すなわち他の議案の目的である事項とは別個の追加提案の拒否(同法303条参照)に当たるときは、当該追加提案に対応する取り消すべき決議が存在することはなく、また、上記拒否をもって他の提案に対応する当該株主総会の招集手続や決議方法全体の瑕疵を構成するとみるべき理由もないから、現に行われた他の決議の取消原因となることもないというべきである。」との判断を示した。
取消原因は存しない
そのうえで、本件についてみると、可決された会社提案の議案は、「取締役8名選任の件」および「ストックオプションとしての新株予約権を発行する件」であり、招集通知に記載しなかった5個の議題(「取締役5名解任の件」「定款一部変更の件」)等とを比較した場合、両者は議案の目的である事項を異にするものと認められるなどと指摘。20個のうち5個の議案を拒否したことに関して「本件各可決に取消原因は存しないものと認められる」と判断した。

【参考】本件株主総会における各議案の決議状況
1 会社提案の次の各議案の可決
第1号議案 取締役8名選任の件
第2号議案 ストックオプションとして新株予約権を発行する件
2 原告提案の次の各議案の否決
第3号議案 取締役9名選任の件(ただし、第1号議案の候補者と重複していない6名の選任を否決するものである。)
第4号議案 定款一部変更の件(株主提案の議案説明分量4000字とする変更)
第5号議案 定款一部変更の件(秘密投票)
第6号議案 定款一部変更の件(社内インサイダーの取締役会議席数の制限)
第7号議案 定款一部変更の件(累積投票)
第8号議案 定款一部変更の件(交換取締役の禁止)
第9号議案 定款一部変更の件(社外取締役の兼任数制限)
第10号議案 定款一部変更の件(社外取締役の再任10回以内の制限)
第11号議案 定款一部変更の件(退任した取締役の報酬開示)
第12号議案 定款一部変更の件(執行役を交えない会議開催義務)
第13号議案 定款一部変更の件(独立取締役の定義ガイドライン作成の義務)
第14号議案 定款一部変更の件(報酬の個別開示)
第15号議案 定款一部変更の件(公益法人の兼任状況の開示)
第16号議案 定款一部変更の件(取締役とその家族の株式売却の事前予告と開示)
第17号議案 定款一部変更の件(ストックオプション保有者のヘッジ禁止) |
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キーワード 「株主提案」⇒70件
(週刊「T&A master」403号(2011.5.23「SCOPE」より転載)
(分類:会社法 2011.7.6 ビジネスメールUP!
1563号より
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