さいたま地裁、プロデュースの虚偽有価証券届出書提出で実刑判決
新規上場時提出の有価証券届出書で初の告発事例、代表取締役に懲役3年
さいたま地方裁判所第2刑事部(中谷雄二郎裁判長)は8月5日、ジャスダック証券取引所に上場していたプロデュースの粉飾決算事件に絡み、虚偽記載のある有価証券届出書または有価証券報告書を提出したとして証券取引法違反・金融商品取引法違反等の罪に問われていた同社元代表取締役社長に対し懲役3年(実刑)および罰金1,000万円、管理部門を統括していた元専務取締役に対し懲役2年6月(執行猶予4年)の有罪判決を言い渡した。
事案の概要
証券取引等監視委員会は平成20年9月18日、金商法違反(虚偽有価証券報告書の提出)等の嫌疑で電子部品製造装置の開発・設計・製造等を行うプロデュース(設立:平成4年、本社:新潟県長岡市)の強制調査に着手。同社は翌19日、これを公表するとともに、22日には代表取締役社長および専務取締役事業本部担当の役職を解いて平取締役としたが、事件による信用低下等を経て26日、新潟地裁に民事再生手続開始を申立て。同社株式を上場させていたジャスダック証券取引所は同日、上場廃止を決定し、10月27日付で上場廃止となった。
今年3月5日、さいたま地検特別刑事部は証取法違反(虚偽有価証券届出書の提出)の容疑で元代表取締役、元専務取締役ほか元取締役2名を逮捕。平成17年11月の上場承認に際して同年6月期の売上高が約14億7,700万円、税引前当期純損失が約6,800万円であったところ、循環取引等により利益を水増しし、売上高約31億1,000万円、税引前当期純利益1億9,100万円と記載した虚偽の有価証券届出書を関東財務局に提出したなどとされた。
監視委員会によると、新規上場時に提出された有価証券届出書の虚偽記載に係る「初めての告発事例」と表明されている。
この事件では、さいたま地検が3月25日、当初の強制調査後の平成20年9月19日、同社の公表前に所有株券計236株を代金合計約7,900万円で売り付けた金商法違反(インサイダー取引)の容疑で元取締役を再逮捕したほか、同社の会計監査を担当した公認会計士を今年4月9日、元代表取締役と共謀のうえ虚偽有価証券届出書を提出したなどとして証取法違反の容疑で逮捕。元取締役については、さいたま地裁が5月27日、懲役3年(執行猶予4年)、罰金500万円、追徴金7,888万円の有罪判決を言い渡し、確定。公認会計士については、さいたま地裁で7月8日、初公判が開かれた。
金商法違反等の対象行為など
元代表取締役・元専務取締役については、判決によると、会計監査を担当した公認会計士と共謀のうえ、(1)ジャスダック上場に伴う株式の募集および売出しを実施するに際し、平成17年6月期について同年11月10日、上述のように利益の水増しなどを行った損益計算書を掲載する有価証券届出書を提出、(2)18年6月期について同年9月29日、売上高約24億5,100万円、税引前当期純損失約2億3,100万円であったところ、各々約58億8,600万円、約6億9,400万円と記載した損益計算書を掲載する有価証券報告書を提出、(3)19年6月期について同年9月27日、売上高約31億1,800万円、税引前当期純損失約7億3,000万円であったところ、各々約97億0,000万円、約12億2,400万円と記載した損益計算書を掲載する有価証券報告書を提出、(4)19年11月16日、株式の募集に際し、(3)記載の有価証券報告書を参照すべき有価証券届出書を提出したもの。検察側の求刑は、元代表取締役が懲役5年および罰金1,000万円、元専務取締役が懲役3年であった。
裁判所の判断
判決では、両名の量刑を論ずる冒頭で「証券市場の公正さを害する極めて悪質な犯行である」と述べたうえ、同社が平成15年6月期から大幅な赤字を黒字に粉飾する決算を繰り返すなか、取引所への上場を目論んで17年6月期の決算に際し売上高を16億円余、利益を2億円余水増しする粉飾決算を行って上記(1)に及んだほか、同年12月に上場を果たして有価証券報告書の提出が義務付けられた後も、公募増資に向けて(1)・(2)・(3)の各犯行により18年6月期に売上高34億円余、利益9億円余、19年6月期に売上高65億円余、利益19億円余という大幅な水増しを行い、2事業年度にわたり、しかも年度を追うごとに利益が飛躍的に増大しているかのようにみせかける粉飾決算を続けた末、これを材料として公募増資を行うために(4)の犯行に及んだと一連の違反行為を位置付け、「そして現に、……虚偽の決算内容を基にした上記公募増資によって約37億円もの巨額な資金調達を行っている反面、それだけ多くの投資家らが誤った情報により多額の損失を被ったのであり、結果も誠に重大である」とした。
売上高の水増し手口についても「当初の売上げの前倒し計上、貸倒れ損失の未収金処理に始まり、架空売上金と架空買掛金との相殺、商流と呼ばれる架空の循環取引に……ダミー会社を何度も介在させて架空売上げを増加」などと仔細に認定。公認会計士の指示のもと、架空取引を裏付ける稟議書等を捏造するなどして粉飾決算を糊塗したなどと犯行態様の巧妙さ・悪質さも指摘。
そのうえで中谷裁判長は、元代表取締役について「部下らに一連の粉飾を指示・命令した首謀者」で、「飽くまで会社の存続や株式の上場にこだわって粉飾の上に粉飾を重ね、さらに、株価をつり上げようとして敢えて事業計画を上方修正するなどしたものであり、上場企業の経営者としての自覚や責任感が全くうかがわれない」などと述べ、当初の強制調査を受けるや公認会計士と口裏合わせを行い、同会計士と相談のうえ、元専務取締役に1,000万円の口止め料を支払ったことなども併せて指摘し、「実刑を免れない」と判断したものである。
元専務取締役については、責任の程度は相当低く「〔元代表取締役の〕手足として働いたにすぎ」ないなどとされている。
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(週刊「T&A master」325号(2009.10.12「今週のニュース」より転載)
(分類:会社法 2009.12.18 ビジネスメールUP!
1347号より
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