担保提供行為で「寄附金」該当性を判断すべきとする主張を採用せず
法人が、現実に金銭・経済的利益等を給付等した場合に係るもの
国外関連者に対する資金提供・債権放棄に係る金銭等が「寄附金」に該当するか否かが争われた事案で、東京地裁民事第3部(八木一洋裁判長)は7月29日、原告による資金提供・債権放棄には、通常の経済取引として是認することができる合理的理由が存在せず、その金銭等は「寄附金」に該当すると判示し、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。
債務保証から債権放棄に至るまでの経緯
(1)原告はX社と「債務保証契約」を締結
原告とX社(原告の元代表取締役が全額出資する法人で原告の国外関連者に該当)は、債務保証契約を締結し、@原告がX社の借入れの担保として、原告の保有するA社株式を差し入れるとともに、借入れを保証すること、AX社は当該債務保証の対価として、X社が取得する融資金額の年間0.5%に相当する債務保証手数料を原告に支払うことを定めた。
(2)銀行が追加担保の要求→原告は証券会社から資金調達
X社は、B・C銀行からF1事業に係る借入れをし、原告がその債務を保証した。原告は、債務保証契約に基づき、A社株式を債務の担保として差し入れたが、担保提供に係るA社株式の価格が下落したことから、銀行は、原告に追加の担保提供を求めた。
原告は、B銀行の同意を得たうえで、証券会社と売買契約を結び、担保提供に係るものを含むA社株式を売却。C銀行の同意を得たうえで、担保提供に係るものを含むA社株式を担保に借入れをした。
(3)原告がX社に資金提供(貸付金)
原告は、X社に対し、金銭を交付し、この資金提供について原告からX社への貸付金として会計処理した。X社は、原告が資金提供した金銭を原資として、B・C銀行に対し、借入れに係る債務を弁済した。
(4)原告が譲渡契約に基づき、債務免除額を損金の額に算入
原告はX社との間で、譲渡契約を締結し、@X社は、原告に対する債務の一部返済としてX社が保有する全資産を譲渡すること、A原告は、@により受領した資産の適正市場価格相当額をX社に対する債務の一部の弁済に充当すること、B原告は、X社に対し、Aの充当後のX社の原告に対するすべての債務の弁済を免除(以下、資金提供に係る債務免除を「本件債権放棄」という)することを合意。原告は、X社に対する弁済を免除した債権額を「子会社整理損」として損金の額に算入し、確定申告をした。
税務署は、原告がX社に貸し付けたとされる金銭は寄附金に当たるとして、法人税の更正処分等をした。
担保提供行為の該当性を問題にすべき
本事案では、@措置法66条の4第3項、旧法法37条6項に定める「寄附金」該当性の判断対象となる行為、A資金提供・債権放棄に係る金銭等が「寄附金」に該当するか否かが争点とされた。
原告は、X社への資金提供による貸付けは担保提供に係る株式の担保は実行されたことと実質的に同一であり、担保実行部分のみを取り上げて「寄附金」に該当するか否かの判断を行うとすると、いかなる担保提供もそれが実行された時点において無償の利益供与に該当することになるので、そのような判断方法は相当でなく、あくまで担保提供行為が「寄附金」に該当するか否かを問題にすべきであり、担保実行の代替手段として資金提供による貸付けをした本件においても同様に解するべきだと主張。
そして、担保提供が債務者との関係で「寄附金」に該当する場合は、担保が実行され、かつ、債務者に対する求償権の行使も債務者の無資力のため不能となるか、または著しく困難となる危険が担保提供時点において客観的に予測されており、担保とされた資産を贈与に等しいと評価されるような極めて例外的な場合に限られるというべきであるとした。
現実に金銭等を給付した場合に係るもの
裁判所は、@措置法66条の4第3項は、その適用対象を「法人が各事業年度において支出した寄附金」とし、また、旧法法37条2項が「内国法人が各事業年度において支出した寄附金」としていること、A法令78条が、旧法法37条6項に規定する寄附金の支出は、各事業年度の所得金額の計算については、その支出がされるまでの間、なかったものとする旨を定めることで未払寄附金の損金算入を認めていないことなどから、措置法66条の4第3項および旧法法37条6項に定める「寄附金」に該当するものとして損金算入の可否が問題となるのは、法人が、現実に金銭その他の資産または経済的利益を給付または供与した場合に係るものであるというべきだとした。
そのうえで、当該担保提供は、原告が保有するA株式をX社の債務を担保するために金融機関に提供したにすぎず、X社に対するA株式の保有に係る権利の移転を伴うものではないから、これをもって、X社に対して金銭その他の資産または経済的利益を給付または供与した場合に当たると評価することはできないと判断。「寄附金」に該当するか否かを検討する際に、担保提供がされた経緯等を勘案することはあり得るとしても、担保提供がされたことをもって、「寄附金」に該当するか否かを論ずることについては、その前提を欠くものというべきであるとした。
金銭の返還を想定していなかった
また、判決は、当該資金提供資について、原告としては、近い将来にX社が清算に入る可能性があることを予測しており、X社から資金提供に係る利息の支払いおよび金銭の返還を受けることを想定していなかったことから、原告による資金提供・債権放棄に通常の経済取引として是認することができる合理的理由は存在せず、その金銭等は「寄附金」に該当するとしており、原告側は控訴している。
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(週刊「T&A master」322号(2009.9.14「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2009.11.18 ビジネスメールUP!
1335号より
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