本件調停は共有持分の放棄ではなく、合意による共有物分割
分割清算金は共有持分交換に係る補足金(譲渡所得の収入金額)と認定
東京地方裁判所民事第2部(岩井伸晃裁判長)は6月27日、共有物分割調停の条項に基づいた他の共有者からの分割清算金を共有持分の交換に係る補足金と認定し、譲渡所得の収入金額に含まれるとして、税務署長の更正をすべき理由がない旨の通知処分を適法とする判決を言い渡した。
事案の概要
本件は、物件目録記載の各土地の共有者であった原告が、原告及び他の共有者を当事者とする共有物分割調停申立事件において成立した調停で合意された共有物分割に際し、本件調停の条項に基づき他の共有者から分割清算金として受領した合計400万円の金員について、所轄税務署長に対し、当初、譲渡所得として確定申告をし、その後、譲渡所得に当たらないとして更正の請求をしたところ、同署長から、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたため、その取消しを求めている事案である。
前提事実
(1)原告、A及びBは、甲土地及び同土地上に存した建物(以下「本件建物」)を持分3分の1ずつで共有していた。
(2)Aは、平成7年に死亡し、C、D及びE(以下「Cら」)が、Aの上記共有持分を平等の割合で相続し、その結果、甲土地及び本件建物の共有割合は、原告が3分の1、Cらが各9分の1、Bが3分の1となった。
(3)甲土地は、平成16年、本件各土地(「本件土地1」から「本件土地4」)として分筆登記され、その結果、本件建物は、本件土地2の上に存することとなった。
(4)平成17年、原告、B、Cらを当事者とする共有物分割調停申立事件において本件調停が成立し、その調停調書には、次の内容の調停事項等が記載されている。
@ 本件土地1をBの「単独所有」とし、本件土地2をCらの「共有」とし、本件土地3及び4を原告の「単独所有」とする。
A Cらは、原告に対し、本件各土地の「分割清算金」として、連帯して200万円の支払義務があることを認める。
B Bは、原告に対し、本件各土地の「分割清算金」として、200万円の支払義務があることを認める。
C 原告及びBは、本件建物の共有持分権を「全部放棄」する。
(5)原告は、B、Cらから、上記の調停条項に基づき、本件400万円を受領した。
(6)原告らは、上記の調停条項に基づき、本件各土地につき、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をした。
(7)なお、本件調停の成立当時、原告が取得した本件土地3及び4は、Cら及びBが取得した本件土地1及び2よりも、資産価値が低かった。
争 点
(1)本件共有物分割が、所得税法33条1項の「資産の譲渡」に当たるか。
(2)本件400万円が、長期譲渡所得の金額の算定の基礎となる譲渡所得の収入金額に含まれるか。
原告は、「本件共有物分割は、各共有者が相互に共有持分を放棄することによって行われたものであり、共有持分の売買又は交換によって行われたものではないから、所得税法33条1項の『資産の譲渡』に該当しない。」「本件400万円(分割清算金)は、本件共有物分割において、原告が、@本件建物の共有持分を喪失したこと、A資産価値の低い本件土地3及び4を取得することになったことに対する損害賠償金(調整金)である。」として、本件400万円は譲渡所得の収入金額に算入されない旨主張している。
裁判所の判断
(1)争点(1)について
共有物の分割の法的性質を踏まえ、本件調停の内容に徴すると、本件共有物分割は、原告らの間で、(略)本件各土地につき、共有者相互間において共有持分の交換が行われたものと解するのが相当である。
ところで、所得税法33条1項の譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、同項にいう「譲渡」とは、売買、交換、贈与その他の有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものと解される。
そして、本件共有物分割は、上記のとおり、これにより本件各土地に係る共有持分の交換が行われたものと解される以上、同項の「資産の譲渡」に当たると解するのが相当である。
原告は、本件共有物分割は、共有持分の交換ではなく、共有持分の放棄によって行われた旨主張するところ、(略)諸事情にかんがみると、本件調停は、各共有者が個別に共有持分を放棄して共有物分割と実質的に同じ結果を作出したのではなく、現に共有者全員の合意により共有物分割をしたものと認めるのが相当である。
原告は、本件共有物分割において、本件各土地の共有持分の交換により、所得税法33条1項の「資産の譲渡」をしたものと認められるので、当該譲渡の対価に係る所得は、同項の譲渡所得に当たるというべきである。
(2)争点(2)について
本件400万円は、本件共有物分割において、原告とB及びCらとの間で、本件土地1及び2の共有持分と本件3及び4の共有持分とを交換するにあたって等価関係の調整のために支払いを約された補足金であると認めるのが相当である。
したがって、本件400万円は原告が、本件土地1及び2の共有持分の本件土地3及び4の共有持分との交換に係る補足金として、すなわち、本件土地1及び2の共有持分の譲渡の対価として取得したものと認められ、かつ、所得税法58条1項において、交換に係る補足金は、同項により譲渡がなかったものとみなされる対象から除外されているので、譲渡所得の収入金額(同法33条3項)に含まれるというべきである。
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(週刊「T&A master」280号(2008.10.27「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2008.12.15 ビジネスメールUP!
1207号より
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