税務上の取扱いとは大きく乖離することに
平成23年3月期から適用の資産除去債務会計基準を読む
企業会計基準委員会(ASBJ)は3月中にも「資産除去債務に関する会計基準」および「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」を決定する方針だ。国際的な会計基準と同様に固定資産の解体撤去や敷地の原状回復のための費用の見積額を負債と固定資産の取得原価に両建計上することになる。平成22年4月1日以後開始する事業年度等から適用される(早期適用可能)。適用までには約1年あるが、企業サイドにおいては、自社における資産除去債務の洗出しの作業などが必要になる。また、税務上の問題も残されており、来年度以降の税制改正での見直しが求められることになりそうだ。今回のスコープでは、資産除去債務会計基準の概要について紹介する。
資産除去債務会計基準の策定はコンバージェンスの一環
資産除去債務の会計処理は、国際会計基準審議会(IASB)とのコンバージェンスにおける短期の検討項目に挙げられているもの。今回の資産除去債務会計基準は、固定資産の解体撤去や敷地の原状回復のための費用の見積額を負債と固定資産の取得原価に両建計上することとしている国際会計基準に合わせたものとなっている。
建設仮勘定やリース資産等も対象
資産除去債務会計基準によると、対象となる「資産除去債務」について、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じる当該有形固定資産の除去に関わる法律上の義務およびそれに準ずるものと定義している。有形固定資産については、建設仮勘定やリース資産のほか、財務諸表等規則において、「投資その他の資産」に分類されている投資不動産についても、資産除去債務が存在していれば対象になる。
また、法律上の義務に準ずるものとは、法律上の解釈により当事者間での清算が要請される債務に加え、過去の判例や行政当局の通達等のうち、その効力の発生により、法律上の義務とほぼ同様の支出が義務付けられるものとしている。したがって、有形固定資産の除去が企業の自発的な計画のみによって行われる場合は、法律上の義務に準ずるものには該当しない。
有形固定資産の取得時に負債計上
具体的な会計処理をみると、資産除去債務は、有形固定資産の取得等によって発生した時に負債として計上することになる。資産除去債務の発生時に当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、当該債権額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上することが求められている。
なお、資産除去債務については、有形固定資産の除去に要する割引前の将来支出(キャッシュ・フロー)を見積り、割引後の金額(割引価値)で算定することになる。
除去費用は資産計上
一方、資産除去債務に対応する除去費用については、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えることになる。
また、資産計上された資産除去債務に対応する除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分することになる。
原則として固定負債として表示
貸借対照表上の表示については、資産除去債務が貸借対照表日後1年以内にその履行が見込まれる場合を除き、固定負債の区分に資産除去債務等の適切な科目名で表示する。貸借対照表日後1年以内に資産除去債務の履行が合理的に見込まれる場合には流動負債の区分で表示する。
また、損益計算書上の表示については、@資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額は関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含める、A時の経過による資産除去債務の調整額は関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含める、B資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額は、原則として、資産除去債務に対応する除去費用の減価償却費と同じ区分に含めるとしている。
なお、注記事項については、資産除去債務の内容についての簡潔な説明などを記載することになる(上記参照)。
税務上、資産除去債務を含めた減価償却は可能か?
適用は平成22年4月1日以後開始する事業年度からとされるが、税務上の取扱いへの影響も懸念される。資産除去債務会計基準の公開草案に対しても、税制との整合性を図るべきとのコメントが寄せられている。
現行では、資産除去債務を取得原価に含めて減価償却することはできない。このため、減価償却後の帳簿価額や償却計算について、会計上と税務上とで異なることになり、二重管理が必要になる。企業の事務負担も大きくなる。
したがって、会計と税務を整合させるには、資産除去債務も含めた減価償却費を損金算入する旨の税制改正が必要になる。この点については、平成21年度以降の税制改正での議論となりそうだ。
MEMO
適用初年度の期首残高の算定
適用初年度における期首残高の算定については、@適用初年度の期首における既存資産に関連する資産除去債務を算定するにあたっては、適用初年度の期首日時点での割引率前将来キャッシュ・フローの見積りおよび割引率により計算を行う、A適用初年度の期首における既存資産の帳簿価額に含まれる除去費用は、資産除去債務の発生時点での割引前将来キャッシュ・フローの見積りおよび割引率が、適用初年度の期首時点と同一であったものとみなして計算した金額から、その後の減価償却額に相当する金額を控除した金額とする。両者の差額については適用初年度の損益として、原則、特別損失として計上することとされている。
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(週刊「T&A master」251号(2008.3.17「SCOPE」より転載)
(分類:税務 2008.5.12 ビジネスメールUP!
1121号より
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