子会社は債務超過ではあるが債権放棄の必要性を認めず
東京地裁、子会社の経営状況が倒産の危機にはなかった事情を指摘
東京地裁民事第2部(大門匡裁判長)は6月12日、債務超過状態にあった子会社に対して実施した債権放棄を寄附金と認定された法人税更正処分等の取消し等を求めていた事案について、「本件債権放棄が子会社の倒産防止の為にやむを得ず行われたものであるということはできない。(中略)本件債権放棄は寄附金に該当するとの事実上の推定は覆されず、損金算入限度額を超える部分は損金に算入されないこととなる。」などと判示し、納税者(株式会社)の請求を棄却する判決を言い渡した。
事案の概要
原告の不服は次の2点である。
第1点は、原告がその子会社であるA社から取得した食品の品質改良のための加工技術に関する実施権に係る契約上の地位の対価としてA社に支払った金員を寄付金と認定されて課税処分が行われたことである。
第2点は、原告がA社とは別の子会社B社に対して実施した2億8,200万円の債権放棄の額を寄付金と認定されて課税処分が行われたことである。
原告は課税処分に対して異議申立ておよび審査請求をしたが、審査請求では、第1点について請求人(本件原告)の主張が認められ、第2点については審査請求を理由がないものと判断された。
納税者は、第2点について、裁決によって一部取り消された後のものの課税処分の取消しを求めるとともに、上記のいずれの争点においても不服申立手続および訴訟に要することとなった弁護士費用は、違法な課税処分と相当因果関係のある損害であるとして、国家賠償請求を行った。
主要な争点は本件債権放棄の寄附金該当性
本件訴訟では、実体法上の判断(寄附金該当性の容認)等を受けて、国家賠償請求は棄却されている。なお、本件債権放棄の寄附金該当性については、「相当性」の要件(子会社の再建計画が合理的か否かという要件)から国税不服審判所(裁決)は寄附金該当性を認めたが、本件訴訟においては、「必要性」の要件(本件債権放棄がやむを得ず行われたものであったか否かという点)について、国側が主張を展開していることに、原告が国側の主張には手続的制約があるとの主張を行っている。しかし、この点については、「訴訟における国の主張と裁決の理由中の判断とは、その基本的課税要件事実において同一」と判示し、原告の主張は斥けられた。
原告は、以下の点を挙げ、「本件は法人税基本通達9−4−2の規定するとおり、債権放棄に「相当な理由」のある場合であるから、本件債権放棄は寄付金に該当せず、その全額が損金に算入される。」と主張した。
・子会社(B社)の再建計画(本件債権放棄を含む)は、「私的整理ガイドライン」等に従い実施されたもので、これらの施策を実行したことで、B社の財務内容は大幅に改善した。
・子会社(B社)は、もはや放置できない債務超過状態であるから、経営危機に陥っていたことは明らかであり、原告がB社の金融機関に対する債務を連帯保証していること等から、本件債権放棄は、原告自らの経営危機を回避するための相当な行為であった。
・本件債権放棄は原告の経営判断であり、会社の業務執行は種々の複雑な要素を考慮しながら適宜・迅速な判断を要求されるから、その経営判断は尊重されるべきである。
「債務超過」ではなく「倒産の危機」で判断
大門裁判長はまず、「事実によれば、本件債権放棄は、少なくとも外形的には、原告の主張するとおり、原告の子会社であるB社の倒産を防止するために(再建するために)行われたものであると認めることができる。」と判示した。
次に債権放棄の費用性を肯定するための要件として、「債権放棄が子会社の倒産防止のためにやむを得ず行われたものであるか否か」(必要性)を判示し、「確かに、一般的には、債務超過の状態にあることは倒産の危機にあることの指標であるといえるが、仮に決算上債務超過の状態にあったとしても、その会社の置かれた現実の状況の下では、事業が継続し自力で再建できる場合もあると解される。」との判断基準を示し、一般的な「債務超過=倒産危機」ではなく、「客観的にみて明白な倒産の危機」を費用性の判断基準とした。
当該子会社の経営状況の検討では、(ア)金融機関の対応(原告が債権放棄をしなければ子会社に対する融資を取りやめるなどとの申入れがなかったこと)、(イ)原告によるキャッシュ・フロー分析(原告が営業権買取り等の支援を講じれば、キャッシュ・フローから、金融機関からの借入金は一本化して支払いが可能であるとされていたこと)、(ウ)子会社自身の再建に対する考え方(子会社の経営陣は原告からの借入金について、債権放棄を受ける必要まではないと認識していたこと)、(エ)中国工場への新たな投資(子会社は中国工場に新たな投資をしており、倒産の危機にあったこととはあいいれないこと)の状況が、B社が倒産の危機にあったことを否定する方向に働く事情があると指摘し、その結果、「原告は、外形的には子会社の倒産を防止するという目的を有していたといえるものの、むしろ、原告自身の投資を拡大することを主な目的として本件債権放棄をしたと認められるのであって、このことも、子会社が平成15年3月(債権放棄)当時倒産の危機になかったことを裏付ける事情として数えることができるというべきである。」と判示することになった。
「倒産の危機」に反するような経営状況がみられたこと(および、原告が寄附金に該当しないことを立証しなければならないこと)から、「本件債権放棄が法人税法上の寄附金の該当しないとする例外的な事情は認められない。」として原告の請求は棄却された。
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(週刊「T&A master」221号(2007.7.30「今週にニュース」より転載)
(分類:税務 2007.9.19 ビジネスメールUP!
1034号より
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