東京地裁、火力発電設備の廃止で有姿除却を容認
発電設備の除却とは「既存の施設場所における固有の用途の廃止」
東京地裁民事38部(杉原則彦裁判長)は平成19年1月31日、電気事業法等に基づく廃止手続を執った火力発電設備の有姿除却の損金算入の可否が争点となった事案に対し、「電気事業会計規則にいう『電気事業固定資産の除却』とは、『既存の施設場所におけるその電気事業固定資産としての固有の用途を廃止する』ことを意味するものと解するのが相当」などと判示し、中部電力(株)の請求どおりに課税処分を取り消す判決を言い渡した。
事案の概要
本件は、電気事業者である原告が、保有する5基の火力発電設備について、電気事業法等に基づく廃止のための手続を執ったうえで、各発電設備ごとに一括してその設備全部につき、いわゆる有姿除却(対象となる固定資産が物理的に廃棄されていない状態で税務上除却処理をすること)に係る除却損を計上し、これを損金の額に算入して確定申告をしたところ、課税庁から、各発電設備を構成する個々の資産のすべてが固定資産としての使用価値を失ったことが客観的に明らかではなく、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないとは認められないなどとして、上記損金算入を否定され、増額更正等を受けたため、これらの更正処分等は有姿除却等に関する法令の解釈を誤った違法なものであると主張して、取消しを求める事案である。
課税庁の主張
課税庁は、以下のとおり主張した。
「電気事業固定資産の『除却』があったと認められるためには、当該電気事業固定資産が、もはやその本来の用法に従って事業の用に供される可能性が客観的にもないと認められるに至った場合であることを要するものと解される。原告は本件火力発電設備を構成する個々の資産について、なおその本来の用法に従って事業の用に供することが可能な状態であることを前提に、原告の他の発電設備への流用、他部門での流用、活用、更には外部への売却等を広くかつ積極的に検討し、実際にもその一部を社内で流用していたものと認められる。そうであるならば、本件火力発電設備を構成する個々の資産は、本件各事業年度末の時点では、実際に解体済みであったものを除き、いまだその本来の用法に従って事業の用に供する可能性がないと客観的に認められるような状態には至っていなかったものと認められるから、本件各事業年度において、『除却』があったということはできない。」
原告の主張
一方、原告は以下のとおり反論した。
「電気事業会計規則の明文の規定からは、電気事業固定資産の除却とは、『既存の施設場所におけるその電気事業固定資産としての固有の用途を廃止する』ことを意味するものであり、これが除却の実体的要件であるということができる。上記除却の実体的要件を理解するに当たって、重要な文言は、@『既存の施設場所における』という文言、及びA『用途』という文言である。」・「(廃止手続が執られた)本件各火力発電設備の『施設場所』は、まさに、各発電所である。本件火力発電設備の『固有の用途』は、いうまでもなく発電である。(中略)本件火力発電設備についていえば、本件火力発電設備がその廃止により発電という機能を二度と果たすことがなくなった以上、社会通念上、発電という本件火力発電設備の『既存の施設場所』における『固有の用途』は、完全に失われたのである。そうである以上、本件火力発電設備の廃止による有姿除却に基づく除却損の計上が会計上認められ、当該除却損は税務上損金として認められる。」
判示の内容
杉原裁判長は次のように判示した。
「電気事業会計規則上、電気事業固定資産の除却とは、既存の施設場所におけるその電気事業固定資産としての固有の用途を廃止したことをいうものと解すべきであり、本件火力発電設備が廃止され、将来再稼動の可能性がないと認められる以上、本件火力発電設備の廃止の時点でその固有の用途が廃止されたものと認められ、同規則にいう除却の要件を満たすことになるから、被告の主張は失当である。」・「原告は、本件火力発電設備を廃止するに際し、これを構成する個々の物品については、@他の発電所へ流用する見込みの物品については廃止時の帳簿価額を、A発電設備の全面撤去後に社外へスクラップとして売却する見込みの物品についてはスクラップ価額を、それぞれその見積価額として算定し、当該見積価額と帳簿価額との差額を除却損として計上したことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。(中略)本件火力発電設備の除却に際して原告が除却損として計上した金額は、除却損として適正な金額を超えてはいないというべきである。」
本判決の影響
いわゆる有姿除却については法人税基本通達7−7−2に取扱いが明らかにされているが、外形的にみて将来再び使用する可能性がまったくないとはいえないのではないかという疑問が生じることにもなり、税務上その除却処理の是非がトラブルになることもある。
本件はそのような事案の1つであるが、電力会社が当事者となったことに顕著な特徴がみられる。本件では、当該火力発電設備の廃止に電気事業法に基づく所定の手続を要し、再稼働には通常の点検を大幅に超える費用と時間が必要になると想定され、社会通念上は再稼動ができない。また、経済産業省令として電気事業会計規則が定められており、原告はその規則に則った会計処理が求められる。当該発電設備自体が大規模なものである点も看過できない。
しかし、除却の判断を社会通念に基づいて判断することなどは、他業種における有姿除却の是非の判断に参考となる要素もあるだろう。
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キーワード 「有姿」⇒5件
(週刊「T&A master」199号(2007.2.19「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2007.3.23 ビジネスメールUP!
965号より
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