ドコモ「少額減価償却資産」訴訟、9社いずれも控訴棄却
課税庁の「一体の資産」の主張は受け入れられず
東京高裁第14民事部(西田美昭裁判長)は7月20日、NTTドコモグループ9社がNTTパーソナルグループ各社のPHS事業を営業譲渡により引き継いだ際およびその後に取得したPHS事業のエントランス回線(基地局回線)の課税上の取扱い(「少額減価償却資産」に該当するか否か)が争点となったドコモ「少額減価償却資産」訴訟で、課税庁(福岡税務署長)の控訴およびNTTドコモ九州の附帯控訴を棄却する判決を言い渡した。
ドコモ訴訟の控訴審は、7月20日のドコモ九州を被控訴人および附帯控訴人とする判決で、ドコモグループ9社に対する判決が出揃った(次頁表参照)。判決はいずれも控訴(および附帯控訴)を棄却するものであり、「少額減価償却資産」に該当するものと認定している。
控訴審の概要
課税庁は、ドコモ各社がパーソナル各社から引き継いだPHS事業のエントランス回線に関する権利がNTTとの間の接続協定によって提供を受ける1つの権利(地位)であるとし、「少額減価償却資産」との原判決の認定は誤りであると主張した。
また、企業会計における重要性の原則により、少額減価償却資産の取得価額の損金算入が認められたものであるから、事業活動における資産の利用目的に照らして、社会通念上機能を発揮していると認められる単位が基準とされるべきである。PHSの最大の特色は移動しながらの通話が可能となることであり、少額減価償却資産の該当性を判断する単位は、相互接続協定に基づきNTTから電気通信役務の提供を受ける総体としての権利(地位)とみるべきものであると、鑑定人の意見書に即して主張した。
さらに、課税庁は、営業譲渡・接続約款上の契約内容やPHS端末の機能などから、一体の権利であると、あるいは、企業会計上も重要な資産であるのに、いたずらにその取得価額の判定単位を細分化し、これを少額減価償却資産として簡便な処理を行うことは、法人税法施行令133条(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)の趣旨に反するものであるとの主張を行った。
控訴審判決の判示
控訴審は各部に配点されて審理されたため、その判決の言い回しには違いもあるが、判決は、「本件接続協定を締結することによりパーソナル又はドコモが資産を取得するのではなく、1回線ごとに個々のエントランス回線を用いてNTTのネットワークと相互接続し、NTTをして、エンドユーザーに電気通信役務を提供させる権利(エントランス回線利用権)を取得したとみるのが相当である。(平成18.4.20判決)」、「被控訴人は本件設置負担金を支払うことにより新たにエントランス回線利用権を取得するが、これは本件資産とは別個の資産の取得とみるほかはない。(平成18.7.20判決)」などと判示し、「このことは、本件設置負担金の支払によりエントランス回線の追加設置を受けた場合ついて検討することからも裏付けられる。」としている。
なるほど、パーソナルからの営業譲渡だけであれば一体の資産とする見方も生じえようが、その後のドコモとしてのエントランス回線の追加設置の際の取扱いとの整合性を考え合わせると、一体の資産とは判定できないとする判示である。
また、「少額減価償却資産に該当するか否かを判断するに当たっては、業務の性質上基本的に重要であったり、事業の開始や拡張のため取得したものであったり、多数まとめて取得したものであるなどといったことを当該取得資産の取得価額を判断する上であえて考慮すべきではないというべきである。(平成18.4.20判決)」、「本件資産は、極めて多数の本件エントランス回線利用権であり、事業のため必要かつ重要な資産ということができる。しかし、そうであっても、1つ1つが独立して機能しているものについては、それを単位として法人税法施行令133条の取得価額を判定するのが相当である。(平成18.7.20判決)」などと判示して、いずれも課税庁の主張を斥けている。
ドコモ完勝! 上告審はどうなる?
控訴審では、ドコモ側で附帯控訴していた事件も見受けられたが、附帯控訴の実質的な内容が、控訴人の控訴が平成11年3月期の損金算入の可否が審理の対象となっている以上、翌期以降における減価償却分についても、控訴審の審理の対象とするため附帯控訴したものとの位置付けであり、課税庁の控訴が棄却されれば、控訴審はドコモが完勝したことになる。
控訴審の判決言渡し日が予定以上にずれたため(7月20日判決分は当初5月30日の判決言渡しが予定され、2回指定期日が延長された)、すでに課税庁が上告受理申立手続を行っている事件も見受けられる。しかしながら、事件の内容からすれば法の解釈で争わざるを得ず、東京高裁の9つの合議体が一致した判断を示したことで、課税庁側の上告受理申立ては厳しい状況ということになる。
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(週刊「T&A master」173号(2006.7.31「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2006.9.6 ビジネスメールUP!
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