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最高裁、「贈与時の付随費用も取得費に」と判示
国税庁・「相続を含め対応」と明言

 

最高裁第三小法廷(濱田邦夫裁判長)は、2月1日、「父から贈与を受けたゴルフ会員権について、贈与の際に支払った名義書換手数料が、当該ゴルフ会員権の譲渡所得にかかる総収入金額から控除されるべき取得費に該当するか」が争点となった事案に対し、「受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、『資産の取得に要した金額』(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。」と判示し、取得費への算入を認めなかった第1審・控訴審判決を取り消し、上告人(納税者)の請求を認容する逆転判決を言渡した。(平成13年(行ヒ)第276号)
 判決の射程は、ゴルフ会員権・贈与された財産だけに限定されるものではなく、所得税法60条1項の規定からすれば、相続により取得した財産にも波及する。平成16年分の所得税の確定申告を直前にして、課税庁は「相続を含めた取扱いの変更」を本誌の取材に回答している。

課税庁は「資産の取得費に該当せず」
 受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、当該贈与財産の譲渡時の取得費とは、認められてこなかった。本件について、課税庁は次のように主張してきた。
 「贈与により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、所得税法第60条第1項において、受贈者が引き続きその資産を所有していたものとみなす旨規定されているところ、本件名義書換手数料は、贈与者が資産取得のために要した費用ではないから、本件ゴルフ会員権の取得に要した金額ということはできず、また、設備費や改良費のいずれにも当たらないから、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費には該当しない。」

納税者は「名義書換料は取得費」
 一方、納税者は次のように主張してきた。
 「所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》及び同法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》は、通常、贈与・相続等で取得した資産を譲渡した場合には、譲渡所得の金額の計算上控除される取得費がないため、贈与者・被相続人の支払った金額(原価)の精算がなされていないことの措置として規定されているものと解される。
 したがって、本件譲渡所得の金額の計算上譲渡所得に係る総収入金額から控除される資産の取得費の額は、@所得税法第60条による「贈与により引き継ぐ取得価額」として上告人(原告)が支払った本件ゴルフ会員権の取得価額と、A所得税法第38条による「その資産の取得に要した金額」として受贈者である請求人がゴルフ場の使用を可能にするために支払った本件手数料の額との合計額とするのが相当である。
 所得税法上、資産の取得価額については、所得税法施行令第126条《減価償却資産の取得価額》を準用することとされており、同条第1項第1号は、購入した資産の取得価額について、購入費用(購入の代価)と業務費用(業務の用に供するために直接要した費円)の合計額とする旨規定し、同条第2項は、贈与の場合の資産の取得価額について、引き続き所有していたものとみなした場合の価額を第1項に当てはめて算出した額とする旨規定している。
 そして、本件ゴルフ会員権の場合、これを譲り受けた者が、本件クラブに対して会員としての権利(ゴルフ場施設利用権)を行使するためには、ゴルフ場経営会社の承認を得て会員名義を書き換え、会員たる地位を取得する必要があるのであるから、これに要する名義書換手数料は、当然に取得費にあたる。」

最高裁は「資産の取得費に該当」
 最高裁は、次のように判示し、上告人の請求を容認した。
 「法60条1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。そうすると、上記付随費用の額は,法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に要した金額」に当たると解すべきである。
 前記事実関係によれば、本件手数料は,上告人が本件会員権を取得するための付随費用に当たるものであり、上告人の本件会員権の保有期間に係る増加益の計算において「資産の取得に要した金額」として収入金額から控除されるべき性質のものということができる。したがって、本件譲渡所得金額は、本件手数料が「資産の取得に要した金額」に当たるものとして、これを計算すべきである。」

判決の射程は不動産にも・相続にも!
 上告人は、「本件は、単にゴルフ会員権における名義変更手数料の取得費性の問題にとどまるものではない。」と指摘しているが、最高裁の判示からすれば、まさしく贈与財産はゴルフ会員権に限定されるものではなく、不動産等の贈与に係る諸費用(登記手数料など)にも、同じ考え方を適用することができる。所得税法60条1項1号は、「贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)」と規定しており、相続の際に要した名義書換(相続登記)に要した諸費用なども判決の射程範囲にある。
 課税庁も平成16年分の所得税の確定申告を直前にして、早急な対応を検討しており、実務家としては、該当事例について、検討が必要になるだろう。

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週刊「T&A master」102号(2005.2.14「最重要ニュース」より転載)

 

(分類:税務 2005.2.23 ビジネスメールUP! 675号より )

 

 
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