最高裁、相次いで「調査の際に適時に提示し得る態勢での保存」と判示
第二小法廷滝井裁判官、消費税の本質から反対意見
最高裁判所第一小法廷(泉 徳治裁判長)は、12月16日、税務調査時に帳簿書類の提示を拒否したために、課税仕入れに係る消費税額の控除を行わない課税処分を受け、この課税処分の取消しを請求した事案に対して、「消費税額から仕入れに係る消費税額を控除することを定める消費税法の規定は、事業者が税務検査の際に適時に提示し得るように態勢を整えて仕入れに関する帳簿、請求書等を保存していなかった場合には、適用されない。」等と判示し、裁判官全員一致で、上告人の請求を棄却・却下した(平成13年(行ヒ)第116号)。
また、最高裁判所第二小法廷(梶谷 玄裁判長)は、12月20日、ほぼ同内容の事案に対して、同旨の判示を行い、上告人の請求を棄却した(平成16年(行ヒ)第37号)が、第二小法廷の滝井繁男裁判官は、「保存」の拡大解釈は、消費税制度の本来の趣旨に反するものと考えられる、として反対意見を述べた。
「保存」の意義について、各地で訴訟が
いずれの事実とも、消費税法30条7項(平成9年改正前の規定)にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」について、争われている。消費税法が求める「帳簿又は請求書等の保存」と、税務調査時の「提示」の関係が不明確であることから、同旨の訴訟が各地で提起されており、下級審の判示も必ずしも一致するものではなかった。
例えば、平成10年8月10日大阪地裁判決では、「保存という文言の通常の意味からしても、また、法全体の解釈からしても、税務調査の際に事業者が帳簿又は請求書等の提示を拒否したことを、法30条7項の保存がない場合に該当する、あるいはそれと同視した結果に結びつける被告(税務署長)らの主張は、もはや法解釈の域を超えるものといわざるを得ない。」と判示していた。
「調査に当たり、適時に提示することが可能な態勢」を要求
第一小法廷判決は、「法が事業者に対して上記のとおり帳簿の備付け、記録及び保存を義務付けているのは、その帳簿が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしていることが明らかである。」と判示した上で、「事業者が、消費税法施行令50条1項の定めるとおり、法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう『事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合』に当たり、(略)同条1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用されないものというべきである。」と判示した。
そして、「上告人は、税務職員から帳簿書類の提示を求められ、その求めに特に違法な点はなく、これに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず、上記職員に対し、平成2年分の接待交際費に関する領収書を提示しただけで、その余の帳簿書類を提示せず、それ以上調査に協力しなかったというのである。これによれば、上告人が、法62条に基づく税務職員による上記帳簿又は請求書等の検査に当たり、適時に提示することが可能なように態勢を整えてこれらを保存していたということはできず、本件は法30条7項にいう『事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合』に当たり、本件各処分に違法はないというべきである。」として、納税者の請求を斥けた。
第二小法廷、第一小法廷判決を容認
第二小法廷は、事案の事実関係において、「上告人は、税務職員が税務調査において適法に帳簿等の提示を求め、これに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず、上記職員に対し、帳簿等の提示を拒み続けた。」と認定し、12月16日の第一小法廷判決を踏襲して、「上告人が、上記調査が行われた時点で帳簿等を保管していたとしても、法62条に基づく税務職員による帳簿等の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて帳簿等を保存していたということはできない。」と判示し、「課税処分に違法はない。」とする請求棄却の判決を下した。
滝井繁男裁判官の反対意見
第二小法廷の滝井繁男裁判官の反対意見は、次のとおりである。
「仕入税額控除は、消費税の制度の骨格をなすものであって、消費税額を算定する上での実態上の課税要件にも匹敵する本質的な要素とみるべきものである。(略)法30条7項の規定も、課税資産の譲渡等の対価に着実に課税が行われると同時に、課税仕入れに係る税額もまた、確実に控除されるという制度の理念に即して解釈されなければならない。」
「(前略)そして、法は、消費税額の算定に当たり、仕入税額を控除すべきものとした上で、帳簿等の保存をしていないとき控除の適用を受け得ないとしているにとどまるのである。法30条7項も、消費税を円滑かつ適正に転嫁するために帳簿の保存が確実に行われなければならないことを定めたものであり、着実に課税が行われるよう、課税売上げの額を正しく把握すると同時に控除されるべき税額は確実に控除されなければならないという消費税制度の趣旨を考えれば、同項にいう「保存」に、その通常の意味するところを超えて税務調査における提示をも含ませるような解釈をしなければならない理由は見いだすことはできず、そのように解することは、本来控除すべきものを控除しない結果を招来することになって、かえって消費税制度の本来の趣旨に反するものと考える。」
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(週刊「T&A master」096号(2004.12.27「最重要ニュース」より転載)
(分類:税務 2005.1.14 ビジネスメールUP!
659号より
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