第17回
証券税制改正の狙い
税理士 右山秀一
証券税制改正、つまり個人に対する上場株式等の譲渡所得課税の軽減は、小泉内閣の緊急経済対策の一環として、平成13年11月30日に公布された税制上の措置である。
しかし、以下に掲載されている『証券税制改正の適用時期』に見るとおり、証券税制は平成14年中に上場株式等を売却した場合には、当該譲渡所得課税の軽減措置の恩恵を受けられないのが、まず、この制度の最大の特徴である。すなわち、証券税制の改正の狙いは、平成14年中に上場株式等を売却させないとする小泉総理の意図を反映したものであり、株価をこれ以上下落させないための緊急経済対策として創設されたものであると考えられる。
次に、平成15年分からの源泉分離課税の廃止と、申告分離課税一本化に係る証券税制の基本的な狙いについて述べる。現行の上場株式等の譲渡に関する課税システムは、源泉分離課税と申告分離課税の2種類が存在する。源泉分離課税は納税者の選択により、通常の上場株式等の場合、譲渡収入金額に1.05%を乗じた金額を、売却した証券会社が売却代金を支払う段階で顧客から譲渡所得税額として徴収して国へ納付する。つまり、源泉分離課税は、譲渡対価の支払いを行う証券会社(源泉)が納付する課税システムである。一方、申告分離課税は、譲渡収入金額から取得費及び譲渡費用(以下「原価」という。)を控除して26%を乗じた金額を売却者(納税者)自身が国へ申告及び納付する課税システムである。当該両課税システムの相違点は、まず税率の違いである。源泉分離課税は、通常の上場株式等の場合、譲渡収入金額から原価を控除した譲渡利益金額を、譲渡収入金額の5.25%とみなして、国税20%(地方税無し)を乗じた金額を譲渡所得税額とする。これに対して、申告分離課税は譲渡収入金額から原価を控除した譲渡利益金額に、国税20%及び地方税6%を乗じた金額を譲渡所得税額としている。また、原価の取扱いにも違いがある。源泉分離課税は、通常の上場株式等の場合、譲渡利益金額を譲渡収入金額の5.25%とみなしているため、原価が不明の場合でも譲渡収入金額の94.75%としていることになる。一方、申告分離課税は、原価のうち取得費が不明の場合及び取得費が譲渡収入金額の5%未満となる場合に、譲渡収入金額の5%を取得費としても差し支えないと取り扱われている(所基通38−16)。
したがって、源泉分離課税は、申告分離課税と比較して地方税6%の軽減及びみなし原価(譲渡収入金額×94.75%)といった優遇措置が存在するため、譲渡費用がないと仮定して当該両課税システムを比較した場合には、原価が譲渡収入金額の約96%以上でなければ、源泉分離課税を選択した方が税引後手取金額が多く残る計算となる。したがって、申告分離課税を選択した方が有利になる納税者とは、大多数が譲渡損を計上する者に限定されることになる。
証券税制は、このような上場株式等の譲渡課税の事情を根拠に、申告分離課税の一本化を実施した場合における証券税制の見直しの必要に基づき、税率の引き下げ、譲渡損失の3年内繰越し控除及び平成13年10月1日における公表最終価格等の80%とする取得費の特例等の改正が行われたものであると考える。
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(2002.7.10 ビジネスメールUP!
313号より
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