第15回

『時価基準と法人税法』

   成蹊大学教授 成道秀雄

 平成11年に金融商品会計基準と外貨建取引等会計処理基準が設定されたことは証取法会計において画期的なことであった。売買目的有価証券、その他の有価証券の期末評価に、デリバティブ取引のみなし決済による期末評価に、そして外貨建資産等の為替相場に、部分的ではあるが時価基準が強制されたのである。利害調整会計から有用情報の拡大を志向する意思決定会計へと大きくシフトしたことを意味している。しかし、商法会計では資産評価と配当可能利益とは切り離して扱い、依然として利害調整会計の立場を重視している。そして税務会計では時価基準について概ね受け入れて各事業年度の課税所得の計算を行うこととなった。このたびの制度会計の拡大は証取法会計が発進地であり、商法会計や税務会計がそれに従うという構図になっている。ここで注意すべきは法人税法は確定決算主義をとっているということである。商法において確定した決算を基にして各事業年度の課税所得の計算を行っている。明治32年にはじめて法人課税が行われたが、同年に新商法が制定されており、商法規定によって計算された利益にそのまま税率を掛けて各事業年度の課税所得の計算がなされていたといっても過言ではなかった。税務会計は商法会計に大きく依存してきたといえる。このたびの証取法会計におけるオフバランスのオンバランス化ー有用情報の拡大傾向に対して、商法は一定の距離を保ったが(けじめを付けたが)、税務会計においては証取法会計に概ね同調した。もっとも外貨換算差損益等は損益の額が比較的大きくなる恐れがあることから、証取法会計では有用情報の観点から外貨建子会社株式・関連会社株式を除いて決算時の為替相場を用いているが、法人税法ではその多くが発生時又は決算時の為替換算法の選択を認めている。このことは税務会計の基本原則である租税負担能力の原則からの要請といえよう。しかし、この租税負担能力の原則は売買目的有価証券の期末評価に、またデリバティブ取引のみなし決済による期末評価には及んでいない。各事業年度の課税所得は、純財産増加説のもとに、各事業年度に帰属する別段の定めを除く収益の額を益金というバスケットに入れ、別段の定めを除く損費の額を損金というバスケットに入れ、その差額でもって計算されるが、そのバスケットの中では、たとえば益金については売上と固定資産の譲渡収入を区別する意味がなく、また損金では販売費及び一般管理費と特別損失を区別する意味がなく総額主義で表される。それゆえにこそバスケットに入れる収益、損費については慎重な検討が求められる。その計算された課税所得が納税資金の担保たり得るかということである。

 法人税等の額は、証取法会計では財務諸表等規則において税引前当期純利益又は税引前当期純損失から控除されて当期純利益又は当期純損失が計上される(財規95の5A)。すなわち収益の控除項目であるが、決算日においては未払金であり、それが実際に支払われるか否かは問題とされない。証取法会計では適正な期間損益計算を行い最終的に当期純損益を計上することが最重要課題である。一方商法会計においても法人税等の額は債務として扱われ、配当可能利益を計算する以前に控除される(計規43A)。そして売買目的有価証券等の評価利益は配当可能利益から除かれる。評価利益は実物利益でないことから実際に配当ができないと考えているのであろう。商法の考え方からすれば、評価利益に課税して法人税額等を求め、それを債務とすることは、支払うことのできない債務を課しているのと同様といえよう。

 ここで法人税法としては、売買目的有価証券等の評価益を益金不算入として、改正前と同様に評価益に課税すべきではないという考え方もあろうが、改正通り評価利益は益金に算入しつつも、租税負担能力の原則から、実物利益を超える納税については繰り延べ(猶予)を認めるというのはどうであろうか。課税所得の構成は実物利益よりも評価利益を優先するとして、たとえば課税所得の全額が評価利益とすれば、その法人税等の納税の繰り延べを認めるというものである。もし課税所得200の構成が評価利益140と実物利益60とし、法人税率を40%として法人税等の額が80(200×40%)とすれば、実物利益60で60の法人税等の納税は可能であるが、あと20の法人税等は評価利益140から納税することが困難であるとして、その繰り延べを認めるのである。

 一方、金融庁の企業会計審議会では減損会計の制度化に向けて現在、審議が進められているが、その減損部分については時価基準のもとに法人税法でも損金算入を前向きに検討して行くべきであろう。資本に課税をすべきでないという原則は真実なる課税所得を算定する上で重要な原則であり、損金算入を認めなければ資本に課税されることになり、真実なる課税所得を算定するに支障をきたし、課税公平性の原則に反するからである。

 今後、証取法会計ではますます有用情報の拡大が進められ、時価基準の適用範囲も広がっていくことになろう。法人税法においても現在までのところ概ね同調してきており、今後においてもその傾向は変わらないであろうが、いわゆるいいとこ取り(税収拡大の見地から評価益の計上は認め、評価損の計上は認めないとする姿勢)をせずに、首尾一貫した取り扱いを行うべきであろう。そして別途、租税負担能力の原則から納税が可能であるか否かについて慎重な考察がなされていく必要がある。

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2001.12.10 ビジネスメールUP! 234号より )

 

 
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