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        第11回  
        『現代の会計監査動向と職業会計人倫理の確立』 
           
            立教大学教授 松井泰則 
         1.外部監査の変遷と高度情報監査時代の到来 
           世界の会計監査の歴史は、@1900年代から1929年にかけての株式会社制度の発展に伴う貸借対照表監査の時代、A1929年の大恐慌を契機とする証券市場の威信回復を図った財務諸表監査の時代、B1970年代から多発する大規模な企業倒産や会計士監査の重要性が指摘された情報監査の時代、C特に1990年代以降の飛躍的なITの発達に伴う高度情報化社会に対応した電子開示とシステム監査の時代の4つに大きく区分される。 
           
           
            さらに今日のIT時代の象徴としてSECによる1996年5月6日のエドガー(EDGAR:会計情報の電子入力の義務付け)の開始や、2000年8月10日のレギュレーションFD(Fair 
          Disclosure)の公表などの動きもある。FDとは、公開企業が未公表の重要な事実をアナリストや機関投資家といった一部の者にだけ開示した場合、つまり選別的開示行為を行った場合には、ただちに当該事実を正式に公表すべきであるというものである。 
         
         2.監査における準拠性と適正性  
            金融庁の企業会計審議会は2001年6月9日「監査基準の充実に関する論点整理」を公表したが、そこで注目されるのは、「準拠性」と「適正性」の関係である。つまり、監査人はその判断において会計基準に準拠せねばならないことはいうまでもないが、同時に財務諸表の適正性が確保されているかについての判断が求められることになる。会計情報がますます高度化・細分化してきている今日、単なる法遵守という形式的な側面ばかりではなく、実態を正しく反映しているかといった実質的な判断がステークホルダー全体から求められているのである。 
           
         
         3.監査と税務とは表裏一体、ならば今、監査に求められているものは会計倫理遂行に対する保証である  
             監査の信頼性を支える「情報の公正性と透明性の確保」があってはじめて投資家側の「自己責任原則」が問われうる。国内で、いくら「あの人は倫理観の強い職業会計人だから」といっても、社会的には何の保証的意味ももたない。つまり、これほどまでに高度な情報化社会にあって、少なくも上質の会計・監査基準の存在と、監査法人ならびに職業会計人の品質保証が確保されることが前提条件にあり、その上で信頼されうる公共レベルでの監視システムが形成されることで、日本の会計インフラは構築される。いってみれば、性能のいい自動車と品位ある運転手(継続的運転教育制度)と、道路・信号等ハードの充実、そして規制の徹底によって秩序ある車社会が実現する如くである。情報の信頼性は、情報を保証するシステムの信頼性にかかっており、その向上には相当のコストも覚悟すべきである。たとえ倫理規定が立派でも、結局は精神論に終始していたり、各種の基準作りがボランティア作業であったりでは、国際的にあまりにも貧弱だ。会計士の信頼回復に向けた倫理規定が確認、裏付けられる組織的な体制やそのための協会の柔軟でチャレンジ精神ある組織改革こそが重要な課題である。職業会計人倫理は会計人のためにあるのではなく、公共のためにある。これを実現するような組織的保証システムの構築が急がれる。 
           
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         (2001.8.31 ビジネスメールUP! 
          194号より 
          ) 
            
          
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