第10回
クロスボーダー会社再編
成蹊大学教授 成道秀雄
国際化に伴い、会社再編が世界的規模で展開されるケースがみられるが、先進諸国では自国の課税権を守るため、会社再編により国外に資産が移転する場合には、譲渡益課税を行うのを原則としている。
その例外的措置として、たとえば米国では、米国内国法人が積極的な事業活動の促進のために含み益のある事業設備を外国子会社に出資する場合には、譲渡益課税を繰り延べている。これは税法上の取り扱い以前に、その実質に着目し、企業行動に経済的合理性が認められるのであれば、課税の中立性からそのようにしているのである。また、米国内国法人が、自社保有で会社再編に参加している外国法人の株式を他の外国法人に移転する場合(移転直後において米国内国法人は当該外国法人株式の全体の議決権及び全体の時価総額の5%以上を依然として保有してないこと)も同様である。これは会社再編によって外国法人株を譲渡して株式交換が行われることになるが、自己の意思によらないことから課税することは酷であるとして課税の繰り延べを認めているのである。さらに米国内国法人が、その所有する内国法人株を他の外国法人の発行する外国法人株と交換する場合には(その交換によって当該外国法人株の全体の議決権及び全体の時価総額の50%以上を保有することになること)、持分の継続性が認められることから、株式交換時の課税の繰り延べを認めている。
次に、ドイツにおいては、ドイツ内国法人が他のEU加盟国に位置する外国法人の恒久的施設に事業単位を現物出資した場合には、外国法人はその事業単位をドイツ内国法人の帳簿価額で引き継ぐことができる。すなわちドイツ内国法人は譲渡益課税を繰り延べることができる。これは、ドイツ内国法人は移転した事業単位の帳簿価額を、受け入れた外国法人株式の取得価額とするので、譲渡益課税の機会を永久に失ったことにはならないからである。また、ドイツ内国法人が適格現物出資の規定(現物出資法人が被現物出資法人の議決権株式の過半数以上を取得できるような現物出資)の対象となる持分(Anteile)を他のEU加盟国に位置する外国法人に現物出資した場合、ドイツ内国法人は、移転した持分の帳簿価額でもって、受け入れる被現物出資外国法人の株式の取得価額とすることができる。この場合は被現物出資外国法人は外国子会社となり持分の継続性がみられ、そのように外国に事業持株会社等の統括子会社を設立することについて課税することは、外国での事業展開を税が不当に妨害することになり、課税の中立性から好ましくないとしているのである。
最後に、日本においては会社再編税制の規定は内国法人に適用されるもので、現物出資(又は負債)でもって外国子会社を設立した場合においても、その現物出資資産(又は負債)については譲渡益課税が行われる。ここで資産または負債に当たるものとしては、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業権及び採石権その他国内にある事業所に属する資産又は負債である。それゆえ、もともと外国にある資産を外国法人に出資するような場合には、譲渡益課税は行われない。また、外国法人株式で発行済株式等の総数の25%以上を保有しているものについてはここでの資産の対象から除かれる。上述したドイツの場合と同じように外国企業支配株式を出資して外国に統括子会社を設立するような場合にまで、本措置の運用を排除することは適当ではないという考えによる。
以上のように例外的な措置を除いて、クロスボーダー会社再編については自国の課税権が及ばないことから、原則課税とされている。しかし、国際化の進展が著しい今日、世界的規模の会社再編も散見され、税制によってブレーキをかけるようなことがあっては、課税の中立性から好ましいことではない。
そこで、以上のような特例措置を除く国内であれば非課税扱いとされるクロスボーダー会社再編であれば、例えばA国に属するX法人が資産(時価200、帳簿価額100)をB国のY法人に移転し、ただし譲渡益課税の税額50((200-100)×50%−−税率を50%とする)をB国がA国に一旦、立替納付するとともに、Y法人は当該資産を帳簿価額100で引き継ぐ。そして事後においてY法人が当該資産をを譲渡したときに、例えば時価が300になっていれば、税額が100((300-200)×50%−−税率を50%とする)であるから、そこでB国は立替納付しておいた税額50を取り返すのである。なお、最初の譲渡益課税による税額、この例では50についてはA国とB国とのあいだで差金決済しておいて、純額で相手国に支払うような方法が考えられよう。
今後クロスボーダー会社再編を各国がどのように扱っていけばよいかは重要な税務問題となっていこう。
バックナンバー
(2001.7.23 ビジネスメールUP!
180号より
)
|