第8回
留保金課税の使命は終った!
筑波大学大学院教授 品川芳宣
現行の留保金課税は、戦前のみなし配当課税・シャウプ税制等にみられるように、株主の所得税の累進課税回避に対処するために設けられた措置といえる。しかし、このような留保金課税をめぐる各種の条件が大きく変化してきており、留保金課税の存在意義が問われている。
第一に、法人税の税率と所得税の最高税率の格差が大幅に縮小していることである。
昭和40年代には、40%(所得税最高税率75%、法人税率35%)あった税率格差が、現在では、7%(37%と30%)に縮小している。これでは、所得税の累進課税を回避するための留保金課税は、その大義名分を失うことになる。
次に、企業の活性化は、日本経済の浮沈の鍵ともなっているが、そのため企業組織再編税制が導入され、連結納税制度の導入が検討されている。しかし、これらは、大企業にとって恩恵が大きいものと期待されている。
中小企業にとっては、それらの恩典が小さいばかりか、金融危機の煽りを受けて中小企業に対する貸し渋りが続く中、自己努力で投資資金等を確保すれば、制裁的ともいえる留保金課税が課せられるようでは、中小企業の活性化などおぼつかなくなる。
留保金課税が中小企業活性化対策と相容れないことは、何も今始まったことではない。沿革的にも、昭和15年の戦費調達のために増税が行われる中でも、事業会社に対しては法人税加算税(留保金課税の前進)が免除されたことがある。
そして、平成12年には、中小企業、ベンチャー企業が支援するため、(1)新事業創出促進法上の中小企業で設立後10年以内の事業年度および、(2)同法上の認定事業者が所定の認定計画に従ってその事業を実施している事業年度については、2年間時限措置として、留保金課税が停止されている。
しかしながら、このような限定的な措置では、税制を複雑にするだけで、中小企業対策としては不十分である。前述の中小企業税制を取り巻く環境の変化をも認識した上で、この際、原則として、留保金課税の廃止に踏み込むべきである。
もっとも、所得税率と法人税率の格差が縮小したとはいえ、相続税等の問題もあるので、タックス・プランニングの手法として今後とも同族会社形態による財産管理会社が存続し続けるであろう。そして、財産管理会社に所得を留保することが各税目を通じた節税対策として有力である。したがって、一定の資産所得(配当等)を保全するような財産管理会社に対してのみ留保金課税を存在させればよい。
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(2001.5.28 ビジネスメールUP!
157号より
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