第7回
株価対策税制の処方箋
筑波大学大学院教授 品川芳宣
証券対策税制の基となっている与党の「緊急経済対策」に盛り込まれている株価対策税制は、次の5項目にまとめられる。
(1) 申告分離課税の軽減
(2) 損失の繰越制度の創設
(3) 譲渡益の一部非課税
(4) 支払法人・株主の配当課税軽減
(5) 相続税・贈与税の一部非課税
これらの対策は、形振りかまわず株式投資について優遇措置を設けて、一時的にせよ株価が上昇すればそれで可とする刹那的なものがあり、全面的に賛成し難い。
ただし、株式投資等についての課税制度については、種々の問題があるので、税制全体の整合性の中で、対策税制が検討されることは、時機を得ている。特に、わが国の税制においては、直接投資(株式)よりも間接投資(預貯金)の方が優遇され、投資所得が冷遇されてきているので、それを見直す好機であるとも言える。
このような観点から、前述の株価対策税制を検討すると、次のようなことが言える。まず、(1)については、土地の譲渡所得等との整合性を図るべきである。
(2)については、株式の譲渡損益については、益が出れば課税するが、損が出れば他の所得との通算を認めないとする継子扱いが続けられてきたので、最大のポイントである。ただし、この問題は、株式の譲渡損益の間で繰越を認めても効果は少ない。この際、株式の譲渡損については、雑所得として取り扱われる分も含めて他の所得と同じように損益通算を認めるべきである。これこそ、株式投資家にとって効果があるはずであり、かつ、所得税の税体系の歪みを正すことができる。
(4)については、法人税制の基本構造(所得税との統合か法人税の独立か)に関わる問題であるので、その検討と整備が必要である。ただし、現在でも、利子より配当の方が不利になっているので、両者のバランスを図ることには意義がある。
(5)については、相続税等の租税回避行為を助長するので、まっとうな案とは言えない。 結局、株価対策税制は、冷遇されている投資所得に対して市民権を与えることから始めるべきである。その点では、地価下落が続く中で、取得、保有、譲渡の段階で重課されている土地税制こそ見直されるべきであるとも言える。
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(2001.5.14 ビジネスメールUP!
151号より
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