税理士法人 平川会計パートナーズ 平川 茂
第75回
金庫株の活用と留意点
1.自己株式取得の目的
平成13年の商法改正により、従来は原則禁止とされていた自己株式の取得が一定の要件の下に認められました。会社が取得して保有している自己株式のことを金庫に保管している株式をイメージして「金庫株」と呼んでいます。
トヨタ自動車も平成14年6月の定時株主総会において自己株式の取得を決議しており、取得価額の総額は6000億円を上限としています。6000億円というとトヨタ自動車の連結決算利益約1兆円の税引き後の利益総額と同等の額となっています。トヨタ自動車に限らず、上場企業各社は自己株式取得の決議を平成13年度の定時株主総会で行っている会社が多く、取得した自己株式を消却することで、自社の一株あたりの利益金額を増加させることを目的としているところも多いと思われます。
2.オーナー企業での活用
上場企業だけではなく、中小企業やオーナー企業にとっても、自己株式取得の規制緩和は、組織再編成や企業防衛、相続税の納税資金対策等に幅広く使えます。例えば、相続により分散してしまった株式を、会社が買取ることで経営基盤の強化や事業承継の円滑化を図るとともに、譲渡株主に対してまとまった現金を支払うこととが可能となります。また、同族企業のオーナー経営者に相続が発生した場合、相続税の納税資金を死亡退職金の支給等に依存する場合があります。しかし、多額の退職金の支給は企業の損益に大きな影響を与える場合や生前退職金が支給されていると納税資金の確保が出来なくなってしまう場合があります。そこで、同族会社が相続人から自己株式を取得して納税資金を確保することが出来れば、それらの問題を解決することが可能となります。
3.自己株式取得に関する留意点
自己株式の取得に関して、留意する点は以下のとおりです。
まず、商法上の制限として、配当可能利益等の範囲内で取得できるという財源規制がありますので、取得時に配当可能利益が確保されていることが必要となります。取得の決議は定時株主総会の普通決議をもって可能となりますが、税務上は、取得時に譲渡株主に対して、「みなし配当」課税が発生する場合がありますので注意が必要です。
個人の株主に対しての「みなし配当」課税は、所得税法第25条に規定されています。通常、株式の譲渡は取得費を超える部分が売却益として、譲渡所得(26%の分離課税)の課税対象になるのに対して、自己株式を自社が取得する場合は、配当所得(総合課税)とみなされる部分があるということです。具体的には、株式の売却により交付を受けた金銭及び金銭以外の資産の価額(譲渡対価)が、その株式に対応する資本等の金額(資本金額及び資本積立金額)を超える部分は配当所得とみなされます。そして、その株式に対応する資本等の金額と取得費との差額が株式譲渡益として譲渡所得の対象となります。
(2002.11.6 ビジネスメールUP!
357号より
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