独立企業間価格って何だ?
(1)移転価格税制の必要性
内国法人(A法人)が外国にある販売子会社(B法人)へ輸出を行い、販売子会社が現地(外国)での販売を担当する場合を考えてみる。A法人(国内)とB法人(外国)とを一体としてみれば、100で購入してきたものを200で販売するわけだから100の(粗)利益が計上されるが、国外取引には、さまざまな思惑がかけめぐる。
税金計算では、A法人の所得には、A国の法人税が課税されるが、B法人の所得には、B法人の所在国(B国)で課税が行われる。A国の法人税率が40%・B国の法人税率が20%だとすると、上記の例では、A法人・B法人いずれも50の所得(利益)に対して法人税率を乗じて、A法人は20、B法人は10、合計して30の法人税を負担する。
A法人・B法人の経営が一体であるとすれば、グル−プとしての法人税負担の軽減を意図してB法人での課税を選択しようとすることであろう。
仮にA法人とB法人間の仕切り価格を100とすると、A法人では所得が生ぜず,B法人で所得100(200−100)が計上される。法人税率を乗ずるとB法人で20の法人税を負担することになり、グル−プとしての法人税負担が30−20=10軽減する。(仕切り価格をもっと下げるとA法人で欠損が生じ、他の所得との通算が行われるので、より大きな法人税軽減効果も考えられる。)
このような国外企業間での所得調整が行われると、A国の課税権が侵害されるので、このような国外企業間の所得調整に対しては、OECD・あるいは各国で移転価格税制を設けて、国外企業間での所得調整に対応している。
(2)移転価格税制と独立企業間価格
それでは、移転価格税制では、どのように国外企業間での所得調整に対応しているのであろうか。
上記の図の流れで、A法人とB法人との間に特殊な関係がない場合に生ずる取引価格を独立企業間価格とし、A法人とB法人との取引は、独立企業間価格で取引が行われたものとして、課税関係を決定しているのである。
A法人とB法人との間に特殊な関係がなければ、A法人・B法人はいずれも自社の最大利益を生ずるための取引価格を設定するであろう。A法人は取引価格を出来るだけ高く、B法人は出来るだけ安く設定しようとするはずである。
具体的には、A法人が特殊の関係のない他の法人と取引をしている場合にその取引価格と比較して独立企業間価格を算定する方法(独立価格比準法)が定められている。
さらに、特殊関係のない他の法人との取引価格との比較が困難である場合に、再販売価格基準法と原価基準法が定められている。
上記の図に当てはめて説明すれば、再販売価格基準法は、B法人の再販売価格200から通常の利益の額を控除してA法人・B法人間の取引の独立起業間価格とする方法であり、原価基準法は、A法人の購入価格(原価の額)100に通常の利益の額を加算した金額をA法人・B法人間の取引の独立企業間価格とする方法である。
(3)独立企業間価格算定の困難性
移転価格税制の基準となる独立企業間価格の算定には、上記の3法(独立価格比準法・再販売価格基準法・原価基準法)が定められているが、この3法(基本3法と呼ばれている。)をもってしても、あるいは、他の方法によっても、独立企業間価格の算定には、困難が生じている。
第一に、実態的に独立価格との比準が困難な場合が多い。国外取引では、市場情報の効率的な取得・アフタ−ケアその他多くの要因から販売子会社や総代理店制度などを採用する場合が多く、このような制度を採用する場合に広く第三者との取引は通常行われない。
第二に、再販売価格基準法では、販売国での情報収集が不可欠であるが、外国での特定商品の販売情報を課税当局が収集するのは困難な作業である。
第三に、再販売価格基準法と原価基準法は、いずれも販売コストの範囲・原価の範囲を設定することが困難な場合が多い。製造を行っている場合に限らず、何らかの加工・付加価値を施している場合に基準としての精度が低下する。
このほか、取引対象には必ずしも時価の明確でないものが多い。取引対象は、市場性のあるものから、関係企業間だけで行われる経営上の役務提供まであるが、市場性のない取引に独立企業間価格を算定するのは、困難な場合が多い。
国税庁は、この7月に企業グル−プ内役務提供に係る取扱いル−ル(移転価格事務運営要領(事務運営方針)の一部改正)を発遣し、適正な移転価格税制の運用に努めているが、現実には多くの問題点が山積する困難な作業が予想されている。
(2002.8.26 ビジネスメールUP!
330号より
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