東京高裁、ライブドア事件控訴審で元CEO側の控訴を棄却
懲役2年6月の実刑を言い渡した原判決を支持
東京高裁第12刑事部(長岡哲次裁判長)は7月25日、いわゆるライブドア事件に絡み証券取引法違反(偽計・風説の流布、虚偽有価証券報告書の提出)の罪に問われたライブドア(当時)の元最高経営責任者(CEO)・Hの控訴審で、東京地裁判決を支持しH側の控訴を棄却する判決を言い渡した。H側は同日、上告している。
本件判決に至る経緯
ライブドア事件は平成18年1月18日、東京地検および証券取引等監視委員会が証券取引法違反の疑いで強制捜査に着手、1月23日には東京地検特捜部がCEO・Hら4名を逮捕し、東京地検は2月13日、同法違反(偽計・風説の流布)の罪でライブドア、バリュークリックジャパン(当時。以下「VCJ」という)およびHらを、3月14日には同法違反(虚偽有価証券報告書の提出)の罪でライブドア、Hらを起訴したものである。一連の経緯を受けて、ライブドア株式等を上場させていた東京証券取引所は4月14日付で上場廃止とした。
東京地裁(小坂敏幸裁判長)は平成19年3月16日、(A)偽計・風説の流布、(B)虚偽有価証券報告書の提出に係る事実を認定したうえで「証券市場の公正性を害する極めて悪質な犯行である」とし、懲役4年の求刑に対して懲役2年6月の実刑判決。これを不服としたH側が即日、本件控訴を行った(機関投資家がライブドアに対し求めた金融商品取引法上の損害賠償請求を一部認容した東京地判平成20年6月13日、事件の概要について、本誌264号18頁参照)。
控訴審における主張
高裁判決によると、H側の主張は、(1)上記(B)に絡んでその名義でのVCJ株式取得がなされた4つの投資事業組合(以下「本件各組合」という)の独立性等につき、原審で実施された公判前整理手続で確認されたのとは異なる枠組みで判断され、被告人の防御権を侵害する不意打ち的判断であるから訴訟手続の法令違反がある、(2)本件各組合は脱法目的、会計処理の潜脱目的で組成されたものではないなど事実誤認がある、(3)TDnetによる公表内容や提出した有価証券報告書の内容は真実であり、仮に虚偽があったとしても被告人には故意はなく、共犯者と共謀した事実もないことなどを含めて多くの事実誤認があり、判決への影響は明らかであるから無罪である、(4)仮に有罪だとしても量刑は重すぎて不当であるなどとするものであった。
高裁判決では、これらの主張に沿って順次判断を示す構成が採られている。
訴訟手続の法令違反、事実誤認について
上記(1)の主張は、(B)に関してライブドア株式の売却益37億円余を連結売上計上する過程で株式取得・売却が本件各組合名義で行われているところ、原判決が「脱法目的、会計処理の潜脱目的で組成された投資事業組合は、当該取引においてはその存在を否定すべきである」として、実質的には子会社であるライブドアファイナンスが親会社であるライブドアの株式を売却して得た利益とし、これをライブドアの連結決算で損益計上した処理が違法であるとした点につき、かかる判断枠組みなどを問題とするものであった。
高裁判決は、原判決における説示等を仔細に検討したうえで「公判前整理手続の趣旨に反するものでもな」いなどとし、また、@本件は会計処理上連結基準を適用すべきであるのに原判決はこれを適用することなくかかる判断枠組みを採用した誤りがある、A連結基準を適用すれば違法とは断定できない本件会計処理を違法とすることは実質的に罪刑法定主義に反するなどの主張についても、@につき「本件での争点は、……実質的にはライブドアファイナンスが売却したといえるか否かであ」り、Aにつき「この主張は組合が実体を備えた独立の存在として法律的に肯定できることを前提にしたもの」などと指摘、いずれの主張も斥けた。
上記(2)・(3)に係る事実誤認に関する主張も極めて多岐にわたるが、具体的にはおおむね、@共犯者の各証言の信用性、A本件各組合の組成目的等、Bライブドア株式売却益の連結売上計上に関するHの認識等、C架空売上計上に関する認識等、DVCJの平成16年11月12日付四半期開示、EVCJの平成16年10月25日付・11月9日付適時開示について争われたものであった。
高裁判決は逐次仔細に検討を加えて原判決を支持。結論として、虚偽有価証券報告書の提出に係るHの認識・認容を肯定し、共犯者との間での共謀を認定するとともに、VCJ株式の売買のため、および同株価の維持上昇を図る目的で虚偽事実等を公表すること(偽計・風説の流布)を認識・認容、これらの共謀も遂げていたとした。
量刑不当について
上記(4)の主張は、要するに刑の執行猶予を求めるものであったが、高裁判決は原判決の説示を「おおむね相当として是認」できるとし、補足的な説明を行っている。
長岡裁判長は、@開示制度の趣旨、ATDnetの意義、Bライブドア・グループの戦略的意図、C犯行態様、D証券市場に及ぼした影響、社会一般に与えた衝撃等に触れたうえで「ライブドアの唯一代表権を有する者として、被告人の指示・了承等がなければ、本件各犯行の実行はあり得ず、その意味で、被告人の果たした役割は重要」で、刑事責任は軽視できないなどと述べ、実刑判決を言い渡した原判決を支持した。
なお、@過去の粉飾事例等と比較し粉飾金額等は少なく軽微、Aライブドア株式の株価上昇は粉飾や株式分割によるものでなく、市場全体の傾向でもあり、株式分割は東証が当時積極的に推奨していた、B株価急落は強制捜査が原因、C企業会計実務において投資事業組合に係る明確な指針が存在しなかったのであり「会計処理を潜脱」というのは当たらないなど量刑不当に関してなされた7つの主張についても、高裁判決は逐一見解を示し、いずれも斥けている。
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(週刊「T&A master」271号(2008.8.25「今週のニュース」より転載)
(分類:会社法 2008.10.10 ビジネスメールUP!
1182号より
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