「国内に住所を有していたとは認められない」と判示し決定処分を取消
住居・職業・親族の居所・資産の所在等に基づき総合的に判断
東京地裁民事第38部(杉原則彦裁判長)は9月14日、当該株式の譲渡時には日本国内に住所を有していなかったので納税義務を負う居住者ではないと主張する原告が、株式の譲渡所得があるとして行われた所得税に係る決定処分および無申告加算税賦課決定処分の取消しを求めていた事案に対して、「検討の結果、本件譲渡期日当時において、原告が日本国内に住所を有していたと認めることはできない。」などと判示して、所得税の決定処分等を取り消す判決を言い渡した。
事案の概要
本件は、処分行政庁が、平成13年分の所得税に係る確定申告書を提出しなかった原告に対し、同年に株式を譲渡した譲渡所得があるとして、同年分の所得税に係る決定処分および無申告加算税賦課決定処分をしたところ、原告は上記株式の譲渡時には日本国内に住所を有していなかったので納税義務を負う居住者ではないと主張する原告が、被告に対し、本件決定等の取消しを求める事案である。
争点
本件株式譲渡契約の実行日とされ、原告が本件代金を受領した平成13年1月12日当時において、原告が日本国内に住所を有していたと認められるか否か。
すなわち、所得税法は、同法7条1項1号において、居住者(非永住者を除く)に係るすべての所得について所得税を課す旨規定し、同法2条1項3号において、「居住者」を「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。」ものと定義するところ、平成13年1月12日当時、原告が同号所定の「国内に住所を有する個人」に当たるか否かが本件における争点である。
裁判所の判断
(1)住所とは、各人の生活の本拠を指すものと解するのが相当であり、生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものである。そして、一定の場所がその者の住所であるか否かは、(略)一般的には、住所、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等の客観的事実に基づき、総合的に判定するのが相当である。これに対し、主観的な居住意思は、(略)補充的な考慮要素にとどまるものと解される。
(2)原告の住居について
原告のシンガポールおよび日本の各滞在日数については、有意の差はない。
しかしながら、原告は、日本に帰国する都度、ホテル等の宿泊施設に滞在し、この間、日本国内において原告の住居といい得る場所は存在せず、また、この間、本件において被告が原告の住所であると特定して主張する場所で原告が起居したことを認めるに足りる証拠はない。
他方において、原告はシンガポールに滞在する時期であると日本その他の地域に滞在する時期であるとを問わず、シンガポールにあるアパートを継続して賃借し、シンガポールに滞在する間はそのアパートで起居していたと認めることができる。そのアパートが日常生活を送るのに十分な設備を有していたものと認めることができることなどの諸事情を勘案すると、上記期間における原告の住居は日本国内に存在せず、むしろシンガポールに存在したものと認めるのが相当である。
(3)原告の職業について
原告の補助者または従業員が日本にいたことをうかがうことができない一方で、シンガポールにおいては補助者3名を使用していたことなどの事情にも照らせば、原告の職業上、その生活の本拠がシンガポールに移転したものと見ることが可能である。原告の職業(または経済活動)をもって、本件譲渡期日当時、直ちに原告が日本国内に住所を有していたと認めることはできない。
(4)原告が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否かについて
本件譲渡期日当時、日本国内において生計を一にする原告の家族または親族は存在しなかったことが認められる。原告が日本国内に居住する原告の長女や両親に一定の経済的支援を行った事実を認めることができるものの、原告の長女および両親がそれぞれ独立した生計を営んでいたことからすれば、本件株式譲渡契約を締結するような経済規模を有する原告の家族または親族におけるこのような経済的支援をもって直ちに原告の住所が日本国内にあったと認めることはできない。
(5)資産の所在等について
本件譲渡期日前後において、確かに原告はシンガポールにおけるよりも日本において多くの資産を有していたものと認められるが、さりとて必ずしも原告が日本に居住しなければその使用、収益もしくは処分または管理等が困難であるといえる資産が存在したとまでは認めることができず、したがって、資産の所在をもって、本件譲渡期日当時、直ちに原告が日本国内に住所を有していたと認めることはできない。
(6)上記の検討の結果からすると、確かに、本件譲渡期日当時における原告の生活の本拠が日本国内にあったことをうかがわせる事情が幾つか存在するものの、(略)総合的に考慮すると、本件譲渡期日当時、原告が日本国内に住所を有していたと認めるには足りない。そうである以上、原告が日本国内に真実の住所を有していたにもかかわらず、シンガポールに住所があるように偽装したと認めることはできず、この限りにおいて、原告が租税回避を目的としていたか否かによってその住所の認定が左右されるものではない。
(7)以上検討の結果からすると、本件譲渡期日当時において、原告が日本国内に住所を有していたと認めることはできず、したがって、本件譲渡期日当時において原告が日本国内に住所を有していたことを前提としてされた本件決定処分等は、その前提が認められないから違法である。
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(週刊「T&A master」235号(2007.11.19「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2008.1.18 ビジネスメールUP!
1076号より
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