特定外国子会社等に生じた欠損は親法人の損金に算入できず
タックスヘイブン税制の問題点をクローズアップ
最高裁判所第二小法廷(古田佑紀裁判長)は9月28日、パナマに設立した100%子会社(A社)に生じた欠損が親会社(上告人)の損金に算入することができるか否かについて争われていた事案に対し、「上告人の所得の金額を算定するに当たり、租税特別措置法66条の6第1項所定の(タックスヘイブン税制の)当該内国法人に係る特定外国子会社等に生じた欠損の金額を損金の額に算入することはできない。」などと判示し、海運会社(上告人)の上告を棄却する判決を言い渡した。
事案の概要
本件は、海運業を営む内国法人である上告人が、パナマ共和国(以下「パナマ」という)において設立した100%子会社であるA社に生じた欠損が実質的には親会社である上告人に帰属するとして、これを上告人の損金に算入して本件各事業年度に係る法人税等の申告をしたところ、被上告人(税務署長)から、A社の欠損を上告人の損金に算入することは措置法66条の6の規定の認めるところではないなどとして、法人税等の更正及び過少申告加算税賦課決定を受けたので、これを争っていた事案である。
課税の経緯
上告人は、昭和58年6月にパナマにA社を設立して以来、A社名義の資産、負債および損益はすべて内国法人親会社である上告人に帰属するものとして法人税および消費税等の確定申告をしており、本件各事業年度等においても、同様に、A社名義の資産、負債および損益が上告人に帰属するものとして青色申告を行った。
税務署長は、次のように更正の理由を附記し、更正処分等を行った。「貴社がその発行済株式の全部を保有しているA社(パナマに本店を有する外国法人)は、下記の事実関係より、租税特別措置法第66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に該当し、かつ、同条第3項に規定する適用除外の規定の適用がないため、同条及びこれに基づく租税特別措置法施行令第39条の15の規定においては、特定外国子会社等に生じた所得から控除することは認められているものの、貴社の所得金額から減額することは認められていません。」
下級審の判示
一審(松山地裁)は、「特定外国子会社等に係る欠損を内国法人の損金の額に算入することが、措置法66条の6によって禁止されるとすることはできない。」などと判示して、措置法66条の6に基づく本件更正処分等は違法なものとの判決を言い渡した。
一審の判示により、税務署長は、「本件の場合に、措置法66条の6を適用することができないとしても、上告人とA社は別法人であって、A社に生じた欠損金について異なる内国法人である上告人の所得と合算することはできない。」との追加主張を行った。これに対し、上告人は「本件更正処分等の附記理由と基本的要件事実を異にするものであり、このような理由の差替えは許されない。」と主張した。
控訴審(高松高裁)は、「タックスヘイブン税制の立法趣旨に鑑みれば、措置法66条の6は、特定外国子会社等に欠損が生じた場合には、それを当該年度の損金には算入することはできない(中略)と解すべきである。したがって、内国法人の子会社が特定外国子会社等にあたる場合には、(中略)実質所得者課税の原則(法人税法11条)を適用する余地はない。」「A社は『特定外国子会社等』に該当し、かつ、適用除外の要件を満たさないと解されるので、措置法66条の6が適用され、A社の欠損を上告人の当該年度の損金に算入することは許されない。」と判示し、更正処分等を適法なものとの判決を言い渡した。
最高裁の判示
最高裁は、「内国法人に係る特定外国子会社等に欠損が生じた場合には、これを翌事業年度以降の当該特定外国子会社等における未処分所得の金額の算定に当たり5年を限度として繰り越して控除することが認められているにとどまるものというべきであって、当該特定外国子会社等の所得について、同条1項の規定により当該特定外国子会社等に係る内国法人に対し上記の益金算入がされる関係にあることをもって、当該内国法人の所得を計算するに当たり、上記の欠損の金額を損金の額に算入することができると解することはできないというべきである。」「本件においては上告人に損益が帰属すると認めるべき事情がないことは明らかであって、本件各事業年度においては、A社に損益が帰属し、同社に欠損が生じたものというべきであり、上告人の所得の金額を算定するに当たり、A社の欠損の金額を損金の額に算入することはできない。」と判示し、上告人の主張を斥けた。
タックスヘイブン税制の問題点と実質所得者課税との関係に焦点が
本件では、タックスヘイブン税制の問題点(特定外国子会社等の留保所得は親会社の所得に合算するが、欠損金は親会社の所得から直接的には控除しない非対称的な制度)やタックスヘイブン税制と実質所得者課税との関係がクローズアップされた。このような争点については、中里実東京大学教授が著書(『デフレ下の法人課税改革』)・雑誌(税研No.123「タックスヘイブン対策税制と赤字子会社」など)で指摘しており、本件上告審においても、上告人は、中里教授の3通の鑑定書を中心に主張した。
また、古田佑紀裁判長は、補足意見において、「法人は、法律により、損益の帰属すべき主体として設立が認められるものであり、その事業として行われた活動に係る損益は、特殊な事情がない限り、法律上その法人に帰属するものと認めるべきもの(後略)」と述べており、法人税実務に即したものである。タックスヘイブン税制の問題点を検討するには絶好の事案であるといえよう。
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(週刊「T&A master」230号(2007.10.8「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2007.11.21 ビジネスメールUP!
1059号より
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